牟田洞窯跡採集陶片の再現
瀬戸黒の検証
青山双渓

1 鉄釉とは
 瀬戸・美濃窯の鉄釉は、中国の黒釉(天目)の模倣からはじまったといわれている。当地の鉄釉は、粘土に鉄分の含有量が多い鬼板(酸化鉄)と呼ばれる着色剤を木灰と混ぜることによって作る。中世の瀬戸窯や古瀬戸系施釉陶器窯から出土した陶片から、そのことが読み取れる。瀬戸黒(引き出し黒。以下、小稿では瀬戸黒と称する)も鉄釉を用いるので、窯の周辺で採取した鬼板を漆黒となる発色剤として使用したと考えている。
 瀬戸黒の誕生には、穴窯や大窯で焼成具合をみるための色見を窯から引き出していることから、鉄釉の釉調の変化を概に知っていたことが前提にあったと考えられる。

2 牟田洞窯跡出土の瀬戸黒陶片からわかる特徴
牟田洞窯跡採集の茶碗と、牟田洞窯跡出土小片6片を実見した。

ア 荒川豊蔵資料館蔵 牟田洞窯跡採集茶碗 (写真 1)
法量 口径12.0−14.0cm 高さ7.0 cm 底径13.5cm
 形姿は円筒形で、口縁は楕円形にゆがみ、碗の両端は割れて欠損している。釉調は漆黒色で、やや透明感がある。釉調から判断すれば、焼成状態は良好で、釉表面には酸化した鉄分が浮き上がったところもある。高台脇の露胎部の色調はねずみ色であるが、赤みを帯びたところもある。

イ 牟田洞窯跡出土瀬戸黒小片6片(写真2)
a釉調は黒色で、透明性はなく細かい梅花皮である。梅花皮の隙間に赤土が付着し汚れている。焼成は過多と思われる。胎土は、引き出したためねずみ色である。
b釉調は黒色で、透明性はなく梅花皮は細かい。梅花皮の隙間に赤土が付着し汚れている。焼成は過多と思われる。胎土は、引き出したためねずみ色である。
c釉調は黒く発色し、部分的にガラス質になっている。細かい梅花皮をなす部分と光沢をもつ部分がある。梅花皮の隙間に赤土が付着し汚れている。胎土は、引き出したためねずみ色である。
d釉調は黒色で、光沢がある。釉の表面には褐色を帯びた汚れがみられる。釉の表面に梅花皮はない。胎土は、引き出したためねずみ色である。
e釉調は黒色で、光沢がある。釉が流下した様子が、黄褐色になった色調の変化でよくわかる。胎土は、引き出したためねずみ色である。
f 釉調は黒色で、光沢がある。釉の表面に、褐色を帯びたぶつぶつとした汚れが見られる。胎土は、引き出したためねずみ色である。

3 釉の分析
 牟田洞窯跡出土の瀬戸黒と鉄釉天目の各小片について、名古屋工業大学に走査型電子顕微鏡による元素分析を依頼した。検出した分析値を元に、酸化物として換算した組成比が表1である。組成比から見出せる瀬戸黒と鉄釉天目の釉の違いは、着色剤になる酸化鉄の含有量が挙げられ
る。瀬戸黒では18.3%、鉄釉天目では4.5%の比率になる。前者は後者の約4.1倍の含有率になる。この違いは、瀬戸黒では急冷により漆黒色を得るため、より多くの酸化鉄を入れたためであろう。匣鉢に入れないで引き出して急冷する瀬戸黒と、匣鉢に入れて徐冷し黒褐色を得る鉄釉天目との違いから生じるものと考えられる。仮に、酸化鉄分が多い瀬戸黒を徐冷すると茶褐色や黄褐色になり、酸化鉄分が少ない鉄釉天目を引き出して急冷すると緑色を帯びた淡い黒色となってしまう。したがって、着色剤になる酸化鉄の含有量を調節することで、それぞれにふさわしい色調に発色させることと、急冷と徐冷の焼成方法を使い分けることで、釉の色調に変化を生み出す工夫をしたものと考えられる。この表1を、ゼーゲル式(釉式)で表すと表2になる。表2を見ると、瀬戸黒と鉄釉天目のいずれも釉薬を熔かす塩基性成分(酸化カリウム、酸化ナトリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等)のうち、酸化カルシウムと酸化マグネシウムの合計値が、酸化カリウムと酸化ナトリウムをあわせた比率よりも高い。このことから、いずれも溶融剤となる塩基性成分として木灰を使用したと思われる。また、アルミナ、シリカ、カリウム、酸化鉄などの成分は、粘土と鬼板に起因するとみられることから、牟田洞窯で使用された瀬戸黒の釉薬は、着色剤である鬼板と木灰、とも土(粘土)で構成されているのではないかと考えられる。

4 鉄含有量と焼成方法の違いによる、瀬戸黒の発色の違い
 まず、鬼板と木灰の比率を変え、鉄釉の発色をみた。今回はガスと薪の併用窯を使い、還元炎焼成で焼成温度を1230℃とし、焼成時間は32時間とした。試験体を窯から引き出す温度は、1130−1150℃である。試験体に施した釉は鬼板100%のものと、鬼板と木灰の重量比を、鬼板90%木灰10%から鬼板10%木灰90%まで10%ずつ変えたものと、木灰100%のものの11種類を用意し、それらの釉調の変化をみた(写真3)。その結果、鬼板40%木灰60%あたりが、窯跡から出土した瀬戸黒に近い黒色となった。
 さらに、牟田洞窯跡出土の陶片に釉調を近づけつつ釉の流下をとめるために、釉にとも土(粘土)を加えてシリカやアルミナ等の量を調節した。加えた割合は、鬼板40%に木灰60%でつくった鉄釉1に対して、とも土1とした。また、とも土による釉調の相違をみるために、成分を変えた赤根曽土を用意し、実験した。その結果、とも土として赤根曽土をそのまま使用すると、シリカが多いので鉄釉に光沢が出た。また、とも土を水簸(すいひ)すればシリカ、酸化カリウムが減り、アルミナの割合が多くなるために艶のない失透の釉調になり、ザラザラとした梅花皮状の凹凸が生じることを確認した。

5 焼成温度と釉調
 窯内から瀬戸黒の試験体を引き出すのに1時間の時間差をつけ、焼成温度を1130−1150℃にし、釉調を確認した(写真4)。その結果、焼成不足の状態では、釉調の発色に光沢がみられなかった。焼成過多の状態では釉が流れ、かつ、釉が煮えてガリガリした釉調になった。
 焼成時間の長さや温度によって微妙な釉調の差が生じることは、引き出した碗の火表と火裏で釉調が違うことからも確認できる(写真5)。つまり、火表側は焼成良好のために光沢が強くなり、火裏側は焼成が不足するので光沢のない失透になったのである。
 しかし、瀬戸黒の中には漆黒の釉に茶褐色の結晶が発生しているものもある。それが徐冷に起因するのではないかと推測し、瀬戸黒を引き出さず窯内に残してゆっくり冷まし、釉調を確認した。その結果、徐冷では釉中の鉄分が酸化し、釉表面に黄褐色の結晶が現れることを確認できた。
〔備考〕
 釉の分析は、名古屋工業大学先進セラミック研究センターに依頼した。釉の分析値は、1個体につき2カ所で分析を行い、その平均値を使用した。
ゼーゲル式の計算については、土岐市陶磁器試験場のソフトを利用した。
参考文献
平成14年 土岐市教育委員会・㈶土岐市埋蔵文化財センター編 『元屋敷陶器窯跡発掘調査報告書』 
平成23年 ㈶ 土岐市埋蔵文化財センター編 特別展『桃山時代の価値観』

陶片から見る瀬戸黒茶碗 成形と釉調の一考察

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